メガロドン

Carcharocles megalodon

 1909年、ニューヨークのアメリカ自然史博物館に高さが2.7mもある巨大なサメメガロドンの顎の模型が出現した。そして全長は24m以上と推測された。
 しかし1973年にその組み立て方に誤りがあると指摘された。この顎にはほとんど同じ大きさの歯(10cm)がはめ込まれていたが、歯の大きさは場所によって異なり、側方の歯は中央部の歯より小さかったはずなのだ。
 John E. Randall は同博物館にある最大の歯(115mm)やワシントンの国立博物館にある歯(117mm)の化石を元にして見積もり直し、13m前後であろうと大幅に下方修正した
 しかしもう少し大きなものもいたようで、南オーストラリア博物館には127mmの歯が所蔵されており、またカリフォルニアのベーカースフィールドからは15cm近くの歯が発見されたので、長さ17m、体重25tに達するものもいただろう (Gerald L. Wood, 1982)。


 メガロドンは世界各地の中新世から鮮新世にかけて(2000万〜500万年前)の地層から発見されている。現在のホオジロザメに近縁でその直系の祖先、もしくは共通の祖先を持つと考えられている。いくつかの化石はそう古くはなく、中には化石とは呼べないものも含まれている。1873年から76年にかけての航海中、海洋調査船 Challenger 号は南太平洋の海底で2個の大きな歯(約13cm)を発見し持ち帰った。
 歯の表面を覆っている二酸化マンガンの厚みからこれらの歯はそれぞれ約24000年、11000年ほど前のものと計算された。これは古生物学的には更新世末期に属するが、地質時代のタイムスケールからすればほとんど現代である。
 この化石とは言えない新鮮な歯の発見はメガロドンがまだ生存していることを示唆しているのだろうか。あるいは誇張だと見なされている9〜12mものホオジロザメの話の中には事実が含まれていたことを支持するものだろうか。

 1918年のある朝、オーストラリアはニューサウスウェールズの沖合で数人の漁師が水面下に巨大な魚の姿を見つけ、慌てふためいて港に引き返してきた。そして数日の間彼らは海に出ることを拒んだという。
 彼らが見た魚と言うのは35m以上もあるサメであり、それが泳ぐとき、海面が広範囲にわたって沸きあがったというのだ。彼らは長年漁で暮らしてきており、サメもクジラもよく知っているので間違えるはずもなかった。
 現地の Fisheries Inspector と共に David G. Stead(1964)は漁師たちと面談した。それが非常に大きな頭をした巨大なサメであること、そして幽霊のように白っぽい色をしていたことで彼らの話は一致していた。Inspector と Stead は正体不明の怪物が彼ら−経験豊かな海の男たちを恐慌状態に陥れたと考えた。その怪物とは1000万年前の巨大ザメ、メガロドンの生き残りではなかったかと Stead は見ている。


 メガロドンは全長15.9m、体重48tに達したという(ニューサウスウェールズ大学)。これはマッコウクジラとほぼ同大だが、重過ぎないだろうか。今までに知られる限り最大の推定体重は実に103tであるとも(海洋生命5億年史)。シロナガスクジラ並?



 ホオジロザメの顎(London Evening News)
 メガロドンは近縁なホオジロザメを巨大化したイメージで描かれている。日本では同じ属カルカロドン Carcharodon に含めることが多いが世界的には Carcharocles が使用されている。カルカロクレスは絶滅しているネズミザメ類に用いられる属名である(海洋生命5億年史)。
 一方、ロンドン自然史博物館はメガロドンの学名に Otodus megalodon を採用している。そしてホオジロザメに似せた復元も正しくないという。口吻部がもっと短く、顎はもっと扁平であり、メガロドンは自身が最のメンバーである別の系統(オトダス)から来ていると。


 軟骨魚類であるサメは歯以外の化石が残りにくい。そして僅かな歯の化石では、その歯が顎のどの辺に付いていたのかわからないと歯から全身の大きさは推定しにくい。
 メガロドンの化石は日本でも多数見つかっている。1986年に埼玉県で中新世、1000万年前の地層から1個体分、73個もの歯が発見された。このようにそろったものは世界的にも例がない。これらの歯からこのメガロドンは全長12mと推定されている(埼玉県立自然史博物館)。

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