長さ6m以上に達するサメは数種類しかいない。ジンベイザメ、ウバザメ、ホオジロザメ、イタチザメ、そしてこのオンデンザメくらいだろうか。
ニシオンデンザメは北大西洋の寒い海に住んでいる。北極海に現れる唯一の大型サメかもしれない。しかも最高1800mの深海にまで生息する。一方水温が12度以上の海域にはやってこないようだ。
ニシオンデンザメはよく海底にじっと潜んでいて、近づいてきた魚を捕らえる。タラやサケが多い。またアザラシもよく餌食になる。特異な例としてはトナカイがこのサメの胃の中から見つかったことがある。角はなかった!
これまでのところ確認されている最大の記録の一つは1895年1月にスコットランドのフォース湾で捕獲されたもので、全長6.4m、体重1020kgあった。このサメの胃の中からは、船員のはくブーツが、脚の一部とともに見つかっている。
1929年の春には、やはりスコットランドのマリー湾で大きなニシオンデンザメがタラの網にかかった。長さは4.6mだったが体重は1067kgもあった。このサメはアザラシの子(1m前後)を4頭も呑み込んでいた。
最大のものは7.3mに達する(McCormick, 1978)といわれているのだが、確かな捕獲記録を見つけることはできなかった。またグリーンランドで体重1397kgの記録があるがこれも詳細は不明だ。
まだ若いホッキョクグマの顎の骨がニシオンデンザメの胃の中から見つかっている。これはホッキョクグマがニシオンデンザメの餌食になっていることを示唆するのだろうか?
アザラシの専門家でノルウェー北極研究所の Kit Kovacs は、温暖化によって北極の氷が溶け、結果としてホッキョクグマはこれまで以上に水中で過ごすことを余儀なくされ、これがサメの脅威を招くだろうというのだが。
もっともサメの専門家、カナダの Steve Campana はこの件には懐疑的なようだ。サメがクマを捕食するなど聞いたことがなく、単にクマの死体を食べたのだろうという。若いクマであってもサメには手強い相手でもあるとも。
しかし Kovacs は反論する。ニシオンデンザメが泳いでいるクマを襲ったのか、死体を食べたのかはわからないが、クマを食べたサメの胃の中には屍肉を食べる動物によく見られる(死体に群がっているはずの)節足動物の類が見つからなかった。これはクマが(死因はともかく)まだ新鮮なうちにサメに食べられたことを意味する(Independent)。
1966年、サンディエゴ近海の1200mの海底を探索中の潜水艇 Deepstar4000 は非常に大きなサメに遭遇した。操縦士の Joseph Thompson はディナープレートほどもある目が見え、それから大きな胸びれが続き、最後に尾が通り過ぎていったと語った。
このサメは長さ9mと推定されている。後にこの写真を見た海洋生物学者の Carl Hubbs 博士はオンデンザメだと同定した(Woods, 1982)。
※ 駿河湾での画像(→)は hito さんから知らせていただきました。
オンデンザメ Pacific Sleeper Shark はベーリング海から北太平洋に住む近縁種で、日本近海にも現れる。最近、駿河湾でサンディエゴと似たような一幕がありこのときは7mと推定されたようだ。
オンデンザメ属には北大西洋のニシオンデンザメと北太平洋のオンデンザメ(ユメザメ)の他に、地中海にも別種がいる。
ニシオンデンザメによく似た2.4mほどのサメが南極圏にほど近い Macquarie 島に打ち上げられた。この Macquarie Shark は南極海域に分布する唯一のサメである(McCormick, 1978)。
ニシオンデンザメは有毒だといわれる。北極探検家の Peter Freuchen はもしこのサメを食べるのなら、肉を3回茹でないといけないといっている。そして最初に茹でた湯をイヌが飲むと毒に当たって死ぬとも。
別のグリーンランド人の説だとニシオンデンザメの肉を食べたイヌは酔っぱらったようになり、眠ってしまうという(McCormick, 1978)。
一方でニシオンデンザメはよく捕獲されている。エスキモーはこのサメをよく捕らえるという、しかもきわめて単純な方法で。
彼らはなんと木切れを餌にサメを釣るのだ。石をくくりつけた木切れをロープで氷にあけた穴を通して海中に垂らす。それから非常にゆっくりと引き上げる。サメは木切れを追って水面近くまでやってくる。そこで銛を打ち込むのだ。
ノルウェーでも何世紀にも渡って獲っている。多いときには年間3万匹もの漁獲がある。主に肝臓から油を採るためである。
※ ac7059さんから知らせていただきました。
徳島では彼岸花をオンデンと呼ぶことを Yuya さんから知らせていただきました。彼岸花(曼珠沙華)の球根は有毒であることが知られていますが、一方で薬用にもされています。その異臭や有毒性を利用して遺体を動物から守るため墓地にもよく見られます。この花に因んだ名を与えられていることがオンデンザメの危険性を表しているのかもしれません。
深海の巨大ザメ、オンデンザメが駿河湾焼津沖で生け捕られ、沼津港深海水族館で公開された。生きたオンデンザメの展示は国内初という。長さ1.7mの雌で、2015年3月17日、水深400m付近の仕掛けに掛かっていたのを漁船が引き揚げた。この時深海魚捕獲のために同水族館の館長が乗り合わせていた(静岡新聞)。
沼津深海水族館では3月18日から一般公開していたが、残念なことにこのオンデンザメは3月24日朝に死亡が確認された。