最も危険な毒蛇となると何を基準にするかによって候補は異なる。毒性の強さ(最少致死量)、毒腺の大きさ、つまり1回の咬みつきで注入される毒の量、そして実際に人を襲う攻撃性。また咬まれた人がどのくらいで死ぬかとなると、その時注入された毒の量、当人の体力により大きく異なる。さらに生息密度、特に人との接触度は被害者の総数に大きく影響する。風貌や容姿、色彩などは見かけの不気味さにかかわってくる。
 世界で最も強い毒を持つヘビはインドネシアからニューギニアにかけての海にすむ Hydrophis belcheri で東北大学の田宮博士等11人が1973年にチモール海で行った調査によるとその毒液は、陸棲のいかなる毒蛇より100倍も強力だったという。
 右は日本からオーストラリアに棲むクロガシラウミヘビ(Black-headed Sea Snake 1.2m)。
それまでは最強の毒を持つウミヘビはインド洋からオーストラリアにかけてのイボウミヘビ(Beaked Sea Snake 1.2m)とされており、人の致死量は1.5mgくらいだ。もっとも1回に射出する毒の量は1mg以下なので人の被害は少ない。
 しかし1957−1964年に101人(このうち漁師が80人)がウミヘビに咬まれて、Penang の病院に運ばれこのうち8人が死亡している。そのうち7人がイボウミヘビによると確認された。

最も強い毒を持つ陸生の毒ヘビとよくいわれているのはオーストラリア南部に住むタイガースネーク(Tiger Snake 1.5m)で人の致死量は僅か0.6mgである。そしてタイガースネークが1回に注入する毒の量は26.2mgもある。人が咬まれると、2、3時間で死亡する。

オーストラリア北部、ニューギニアに住むタイパン Taipan は最大3.4mに達し、毒性、毒の量、攻撃的と三拍子そろった危険な毒蛇だ。
 オーストラリア中東部に住む ナイリクタイパン(Fierce Snake 1.7m)の毒はタイパンの4倍、タイガースネークの9倍も強力だといわれる。このヘビは1回に出す毒の量もかなりのもので最高110mgに達し、125,000匹のネズミを殺す威力がある。人がこのヘビに咬まれた例はまだ知られていないようだ。


東南アジアのアマガサヘビ類(Kraits 1.2−2.3m) も強力な毒を持つことで有名だ。しかも痛みが伴わないので手遅れになることが多い。
 インドアマガサは特に強い毒を持ち、2−3mgが人の致死量といわれ、死亡率はワクチンを投与しても50%に達する。

 ヘビの毒は大きく神経毒と出血毒に分けられる。コブラ類や上に挙げたヘビの毒はいずれも神経毒で、咬まれると目が見えなくなったり、言語障害が起こったり、平衡感覚を失うなどの症状が出る。痛みは比較的少なく、毒の回りは速い。


 クサリヘビ科のヘビ類 Viper は多くが出血毒を持っている。こちらの毒は体の組織・細胞を破壊し、内出血を起こしながら体内を回る。咬まれた部分は2、3倍に腫れ上がり猛烈に痛む。目・耳・鼻・腎臓・胃・腸などからも出血することが多い。
 ここから想像できるように神経毒に比べてはるかに苦しむ。クレオパトラが自殺にクサリヘビではなくコブラを使ったのは賢明な選択だったのだ。
毒の量のチャンピオンは
 ブラジルの ハララクス Jararacussu という毒蛇は1回に150−200mgの毒を出す。最高1530mgも出した例もある。これをしのぐのがガブーンバイパーで1回に350mg以上を出し、コンゴのブラザビルで行われたテストでは3回の合計が2970mgもあった。人の致死量は60mg。

 最も多くの人が咬まれているという意味で最も危険な毒蛇は赤道以北のアフリカから中近東を経て、インドまで分布するノコギリヘビ Saw_scaled Viper だ()。クサリヘビ類としては非常に毒が強く(最少致死量は3−5mg)しかも場合によっては(驚いた時など)かなり攻撃的になる。

ヒャッポダ(百歩蛇)Hundred_pace Pitviper
台湾に住む強烈な毒蛇。咬まれると百歩歩くうちに死ぬとか。

 2005年11月、沖縄本島南部の玉城村にあるおきなわワールドに長さ225cmもあるハブが登場した(体重は2.3kgとのことなのでガラガラヘビに較べるとかなりスリムだが)。沖縄県衛生環境研究所ハブ研究室によると東風平で1981年に生きた状態で捕獲された214cmが過去最大だったそうだ。
※ yoshioka さんと Hiro さんから知らせていただきました。

 2007年7月、鹿児島県奄美大島で長さ221cm、体重3.5kgのハブが捕まり、地元の奄美観光ハブセンターに運ばれた。卵10個を宿している雌だった。奄美市名瀬長浜町の奄美観光ハブセンターにこれまで持ち込まれた約140万匹の中で最も重く、全長も歴代3位。山野草を採りに行った農業の男性(63)が、樹上にいたのを捕まえたという(朝日新聞)。※ hideさんから知らせていただきました。

 2009年7月、奄美大島で長さ226cm、体重3.15kgのハブが捕獲された。これも奄美観光ハブセンターに持ち込まれている。島内での捕獲例では従来の記録は長さ215cm、体重2.45kgであり、今回のは体長、体重とも過去最大という(毎日新聞)。冷静に見ても歴代ビッグ3に入る大物ではある。
※ ac7059さん、よしおかさんから知らせていただきました。



 2011年10月、沖縄・恩納村で長さ242cmもあるハブが捕獲された。奄美大島で1992年に見つかった241cmを1cm更新し、これまでに確認された最長のハブだ。体重は2.9kg。沖縄県衛生環境研究所では、実物から型を取るカラー拓本(魚拓)を作成し、ハブは捕らえた人に返却した(沖縄県衛生環境研究所)。
※ ac7059さんから知らせていただきました。

 奄美大島は毒蛇に咬まれる頻度が世界で最も高い地域だといわれる(Animal Facts & Feats, 1982)。毎年500人に1人がハブ)に咬まれているそうだが、治療設備が行き届いているので死亡率はごく低い。
 鹿児島県保健環境部の調べでは1989−1998年の10年間に1070人が咬まれたが死者は3人だった。
 また厚生省の人口動態統計によると日本全国でマムシによる死者は1989−1997年で103人である。

 奄美大島や沖縄、及びその周辺の島々に棲むハブ Hubu Pitviper は日本ではアオダイショウに次いで大きなヘビ。最大のものは227cm(松井孝爾、1977)、一説では243cm(学研、1999)に達する。毒は強烈で、南西諸島ではハブを退治するためにマングースを移入したほど(これは失敗だったが)。


HOME