▲シャチの接近に怯えるオタリア(パタゴニアアシカ)の群。
陸上に逃げられると何もできないが、すぐには諦めきれないシャチは、
しばらくの間辺りを漂っている。

▼氷塊の上に追い詰められたウェッデルアザラシ
この直後、シャチの突進で氷から滑り落ち、シャチの餌食になってしまった。
 シャチは貪欲である。体長6.4mの雄の胃の中から13頭のネズミイルカと13頭のアザラシの残骸が見つかったことがあり、しかも14頭目のアザラシが喉に詰まっていた。
 アザラシとイルカ、あわせて27頭、たとえ皆が皆子供であっても相当な重量になるだろう、シャチの大食い振りがうかがえる。もっとも、原文(Carwardine, 1995)の記載が曖昧なのだが、これらのイルカやアザラシがすべて丸ごと食べられていたわけではなさそうだ。

 シャチは海獣類で最も速く泳げる動物のひとつで、1958年10月、アメリカ西部の沖合いで約7mの雄が時速56kmで船に近づき、その後20分にわたって時速38kmで船の周りを泳ぎ続けていた。
 シャチがミンククジラのような泳ぎの速い獲物を追う時のスピードは時速65kmに達すると推定される。

 シャチはイルカ類では最大で1948年からの10年間に日本で捕獲されたシャチ(567頭)の平均体長は雄が6.5m、雌では6.1mだった。また最大は雄が9.6m、雌は8.3m(西脇昌治、1965)。
 カリフォルニアのマリーンランドで飼われていたシャチ、Orky は1968年の4月にブリティッシュ・コロンビアで捕獲された。この時体長5.2m、体重約2t。
 そして1976年1月には7.2m、5tになり、1980年10月の測定では体長8.1m、体重6.3tに達していた。これは飼育された海獣としては最大記録のひとつである。また連れ合いの雌 Corky は6.2mで約3t。

 ホッキョクグマの母と子が氷塊の上で不安そうに寄り添っていた。氷塊は激しく動いており、周囲の波からみてただ事ならぬ様子だった。突然、氷塊の下から鮮やかな白と黒のツートンカラーのシャチが、氷を突き上げるようにして現れた。
 ホッキョクグマの親子はこの時は何とか難を逃れた。最大のクマであるホッキョクグマは雌でも300kgもあるが、それでも3トン以上もあるシャチから見ると小さな子供でしかない。

南紀白浜アドベンチャーワールド
南紀白浜アドベンチャーワールド


Shark-eater

 かつて映画 ORCA でシャチがホオジロザメを襲って一方的に殺してしまうシーンがあった。もちろん映画であるからフィクションだが実際にシャチとホオジロザメが戦った記録がある
 2、3年前テレビのニュースでやってたそうで、ヘリコプターからの撮影でサメは死んだがシャチも傷ついたらしい(イノマタさん、情報ありがとうございます)。
 また1997年10月、子連れのシャチがホオジロザメを襲ってあっさりと殺してしまうところがビデオに撮影されている。ナチュラリストの Mary Jane Schramm によると場所はサンフランシスコの沖合約32kmの所で、のんびりと泳いでいた母シャチ(約6m)は、突如表れた黒い影に気づくとそれに向かって突進し、約3mのホオジロザメを咥えて水面に上がってきた。シャチはサメを殺しはしたが食べなかった。どうやら子供に危険を感じての攻撃だったようだ。

 KANきちさんから知らせていただきました。

シャチは長生き

 クジラ類は最も長命な哺乳動物のひとつに挙げられる。オーストラリアのニューサウスウェールズの沖合では1843年から1930年まで、Old Tom と呼ばれたシャチが毎年冬に現れた。体に特徴があって他のシャチと見分けられたそうである。彼らは主にザトウクジラやセミクジラを捕食していたが、1910年には29.5mもあるシロナガスクジラを殺した
 Old Tom は群のリーダーだったが、ノルウェーの捕鯨船がやってくるようになった1915年頃から群の数が少なくなり始めた。そして1928年には Old Tom ともう1頭(Hooky と呼ばれていた)だけになり、さらに翌年には Old Tom だけがやってきた。そして1930年、Old Tom は再び1頭で現れてまもなく死体で発見された。体長6.7mでシャチとしては並の大きさだった。その骨格は現在も現地の Eden 博物館に展示されている(Gerald L. Wood, 1972)。
 ところがこの骨格(おそらく歯)を再調査したところ、Old Tom は35歳で死んだとの判定が出された(Mark Carwardine,1995)。

 シャチは人を襲うか?

 U.S. Navy Diving Manual には危険度4+、つまり最も危険な海の動物にランクされているという。実際に人を襲った記録はどれくらいあるのか。
 1952年3月、カリフォルニアで2人の釣り人が乗ったボートがシャチに襲われた。シャチは4mほどのボートの周りをぐるぐると数回泳ぎ回った後突進してきた。シャチが船体に噛み付いたので、堪らなくなった一人がオールでシャチの目の辺りを突いたところ、シャチは退散した。2人の乗っていたボートは近くの島にたどり着いた直後沈没してしまった。後で見ると直径15cmほどの穴が開きかけていた。
 しかしその証拠写真を見た海棲哺乳類の権威 Victor B. Scheffer はRoger A. Caras(1975)にボートに残された歯型は間違いなくサメのものであると答えた。カリフォルニアの沖合にはシャチもホオジロザメも棲んでいる。二人は襲ってきた相手の大きさからシャチと判断したのか?
 ほぼ同じ頃、南アフリカでは4人がシャチに殺される事件が起こった。1956年、ケープ沖合でシャチが釣船を襲い、乗っていた6人のうち4人が死んだというのだ。しかし詳細は明らかでない。4人はシャチに食い殺されたのではなく、溺死したのだとも言われている。そして襲ったのも別種のもっと大きなクジラだったとも。
 1972年6月ガラパゴス近海で、Douglas Robertson とその一行が乗ったヨットが、3頭のシャチに襲われた。43フィート、19トンもあったヨットは数分で沈み、乗組員は救命ボートで脱出した。シャチはすぐに姿が見えなくなったが、救命ボート上の人を襲うことはしなかった。

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