セミクジラ(背美鯨)の黒色で丸く肥大した体は極めて印象的である。頭は体長の約1/4を占める。若い個体は灰青色だが、成長すると共にしだいに暗色になり、成長しきった個体ではほとんど黒色である。腹部には不規則な白い斑がよく見られる。
新生児は体長5-6mであり、普通17m前後にまで成長する。捕鯨がさかんな頃、鯨油と共に珍重されたクジラ髭は非常に大きい。現在保存されているクジラ髭では、1961年にアリューシャン海域で捕獲された体長17.1mの雄が持っていた2.9mが最大と考えられている(西脇昌治、1965)。
南半球では南緯20-50°、北半球では北緯20-70°の海域に分布し、北太平洋産、北大西洋産、及び南半球産それぞれを別種とする見解もあるが、同一種とする説が多い(Walker、1968)。また北極海でも発見されている。しかしホッキョククジラとの混同もあり、北限については不明である。 |
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セミクジラは世界でも最初に捕鯨の対象となったクジラで、10〜15世紀にはヨーロッパでさかんに捕獲されていた。その後北方航路の探検により、スピッツベルゲンを中心としたホッキョククジラ漁が多くなった。そのころにはセミクジラは既にかなり少なくなっていたのかもしれない。
英名の Right Whale の意味は捕鯨の対象として正しいからだという(Macdonald, 1984)。動きが遅く、死ぬと水面に浮くので昔の稚拙な捕鯨の技術でも容易に捕らえることができ、得られる脂肪の量も多かったのだ。現在では多少増えたようだが、それでも生息数は2000-3000頭にすぎず絶滅危惧種に指定されている。 |
クジラ類で最大の種はシロナガスクジラだが、2番目に大きいのはどれか? 一般的にはナガスクジラ Fin Whale or Rorqual だとされることが多い。長さでは確かにそうだ。ナガスクジラは成長すると20〜22mになる。最大のものは26.8mである(西脇、1965)。
一方セミクジラはカムチャツカで21.3mの記録があるといわれるが(Klumov, 1962)、普通は17mどまりである。しかし体重ではナガスクジラも2位の座は危うい。ナガスクジラはシロナガスクジラよりもスリムで最大のものでも100tには届かないようだ。
ナガスクジラ Fin Whale
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セミクジラ Right Whale
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18.3m |
30.6t |
19.8m |
36.3t |
21.3m |
45.7t |
22.9m |
54.0t |
24.4m |
60.8t |
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14.1m |
46.9t |
14.7m |
51.8t |
15.1m |
55.3t |
16.1m |
65.7t |
17.1m |
67.2t |
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上の表は主として1956年以降の日本鯨類研究所の調査によるもので西脇昌治氏の「鯨類・鰭脚類(1965)」から抜粋した。体重は解体後の計量で流出した血液や体液は含まれていない。1960年頃、特別のライセンスを得てロシアの捕鯨船が捕獲した10頭のセミクジラで最大のものは体長17.4mの雌で体重は107tもあった(Kulmov, 1962)。また Omura(1969)は体長20.7mの個体の体重を135tと推定しているがこれは少々過大な気がしないでもない。
セミクジラにはナガスクジラ類と違って背鰭はなく、尾鰭と胸鰭は大きい。しかし鰭の完全な個体は少なく、変形していることが多い。これはシャチの攻撃によって負傷したのかもしれない。
ところで実はセミクジラも2番目に大きなクジラだとはいえない。よく似たクジラで北極海に棲むホッキョククジラの方がいっそう肥満し、さらに重くなるからだ。しかしホッキョククジラの体重が計量された記録は知られていない。 |
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ホッキョククジラ Greenland Right Whale or Bowhead は全身灰青色であるが、尾柄部および下顎前端に白い部分を有する個体もある。頭が非常に大きく体長の1/3に達する(頭骨の長さ5〜6m)。体長はセミクジラと同じくらいで、19世紀の初め頃に捕獲された322頭の中で最大のものは17.9mだった。1963年にはアラスカ北部で19.5mの個体が水揚げされている(Wood, 1982)。
過去において体長21.3m(スピッツベルゲン)とか21m(カムチャツカ)の記録がある。また16-17世紀には30mもの個体が2例あるが、さすがにこれは大げさだろう。西脇氏は現存する頭骨から推して最大で20mだろうとしている。
ホッキョククジラは夏には北極海に生息し、氷結するに従って南方に回遊する。冬にはベーリング海のセントローレンス島や、セントマシュー島まで南下する(Macdonald, 1984)。冬にベーリング海北部で子が生まれ、やがて群は北へ移動を始める。バロー岬を越えてボーフォート海に入り、5月にはアムンゼン湾に到達する。Walker(1968)は冬には千島付近まで南下するとしているが、西脇氏は確認されていないという。北大西洋でも南限は北緯65°あたりである。 |
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