体長:3.8m | 新生代第三紀始新世後期 (4000万年前) |
今まで地球上に現れた陸棲の肉食獣の中で最も大きかったのが、このアンドリューサルクスだ。か節類のメソニクス科 Mesonychidae に属するこの動物の大きな頭骨が1923年、モンゴルで見つかった。当初はその巨大さからエンテロドンの1種と考えられた。
現在ニューヨークのアメリカ自然史博物館で見ることができるこの頭骨は長さ83cm、幅56cmもあって、現存のクマやライオンをはるかに凌駕している。
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アンドリューサルクスの化石はこの1点しか見つかっていないので、全体のプロポーションははっきりしないが、Henry Osborn (1924) はメソニクス Mesonyx obtusidens との比較から体長3.8mと推定している。しかし最近では頭がやけに大きなグロテスクなスタイルでかなり無理のある復元になっている。大きな歯を持つ顎は強力で、また顎を動かす筋肉は相当発達していたようで、骨や貝殻を噛み砕くことができた。
アンドリューサルクスの生態はよくわからないが、雑食性だったと思われる。おそらく腐肉食でもあっただろうし、機会があれば他の動物も襲った。ハイエナのような生活をしていたのかもしれない。しかしライオンやトラのように自分より大きな動物を捕えることができたとは考え難い。死体漁りが主だった可能性もある。
サルカストドン | Sarkastodon mongoliensis |
体長:3m ? | 新生代第三紀始新世後期 (3700万年前) |
食肉類(イヌ・ネコ・イタチ・クマなどのなかま)とは別のグループ肉歯類のオキシアエナ科 Oxyaenidae のサルカストドンはアンドリューサルクスより少し新しく3700万年ほど前に、やはりモンゴルに住んでいた。不完全な頭骨しか見つかっていないので、こちらも全体像ははっきりしない。
よく見かけるサルカストドンの復元された姿は尾の長いクマのようだ。強くて重々しい歯を持ち、雑食性だったと考えられているが、機会があれば大型草食獣を襲ったかもしれない。
サルカストドンの一部が欠けた頭骨は、アメリカ自然史博物館の中央アジア探検隊によって、1930年にモンゴルで発見された。一説に長さ90cm近くもあるといわれていた(今泉吉典、1991)。
Walter Granger(1938)によれば頭骨(→)は長さ35cm(幅38cm)で、欠けている部分(点線部分)を補うと50−53cmになる。これでもアラスカヒグマの最大の頭骨より大きいが、アンドリューサルクスはもちろん、メギストテリウムよりも小さい。
オキシアエナ科の代表者、5000万年前のオキシアエナ Oxyaena lupina は体長1mくらい、イタチのように細長い体をしていた。犬歯は大きく、今日のクズリのような生態で、相当に凶猛残忍であったらしい(鹿間、1979)。
肉歯類はヒアエノドンとオキシアエナに代表されるが、これはどちらも獰猛・貪欲でどうしようもない存在だった。イヌほどの大きさの原始的な有蹄類を手当たりしだい殺しまくっていた(絶滅巨大獣の百科)。だいぶ過激な表現が並んだが、両者はドールやクズリ並の脅威を周囲に与えていたのだろう。
オキシアエナの進化したタイプといえる大型のパトリオフェリス Patriofelis ferox ともなると、トラのような生態であったろう(鹿間、1979)といわれる。始新世中期、4500万年前の北アメリカの代表的な猛獣だった。体長175cm、肩高70cm、頭骨の長さ35cm。足の幅が広くそれ故走るのはあまり速くなかったかもしれないが、指はよく開き、泳ぎはたくみだったとされる。
今日のジャガーは川でカメを捕らえることがある。パトリオフェリスの化石が出ているワイオミングの Bridger 湖にはカメも多かった。パトリオフェリスもカメを捕食したかもしれない。カメの甲羅の破片を含んだ糞の化石が Bridger 湖から見つかっている。先祖のオキシアエナは木登りが巧みだったが、パトリオフェリスは樹木よりも水を好んだようだ。カワウソのような習性を持っていたかもしれない。
メギストテリウム | Megistotherium osteothlastes |
肉歯類ヒアエノドン科 Hyaenodontidae での最大の代表は、メギストテリウムで中新世にリビアに生息していた。頭骨の長さが65cmもあり、体長3m、体重は500kgと推定されている。
エジプトやパキスタンでもメギストテリウム属の化石が見つかっているが種名を確定するまでには至っていないようだ。
ブリストル大学の Robert Savage 教授によれば1mを超す頭骨があるという。もしこれが確認されたものならメギストテリウムこそが古今を通じて最大の陸生肉食獣ということになるのだが。
↑メギストテリウムは、ヒアエノドン科の他の仲間と同様に、体に比べて非常に大きい頭を持っていたので、そのボディマスは現生最大のクマ類あるいは大型ネコ類のそれを超えていなかった可能性が高い(アラン・ターナー、2004)。
ヒアエノドン科はユーラシア、アフリカ、北アメリカから多くの種が知られている。今日のネコ科とハイエナ科が占めているのと同様の生態的地位(ニッチェ)にあった。四肢が長く、敏速に動き回ることができた。頭骨は体の割に非常に大きく、終生成長し続けていたという。強大な犬歯や裂肉歯の存在はこの恐ろしい動物がたいへん強力だったことを示している。それなのにどうして絶滅してしまったのか?
→漸新世(3500万年前)に北アメリカに棲んでいた
ヒアエノドン Hyaenodon horridus
体長1.1〜1.4m、頭骨が28cmほどあった。
肉歯類としては特殊化が進みハイエナ的となった。しかしその歯はハイエナよりずっと鋭く、おもに有蹄類を狩っていたようである。
ケニアのビクトリア湖ルジンガ島で発見されたヒアイナイロウロス Hyainailouros sulzeri もまたヒアエノドン科の巨大な肉食獣でその頭骨は約60cmもあった。化石はケニヤの他、アフリカ各地の中新世(1300万−2200万年前)の地層から見つかっている。ナミビアでは大型のクマイヌ・アンフィキオンと一緒に発見されている。メギストテリウムはこのヒアイナイロウロス属に含まれる可能性があるという。歯列の形からこれらの巨大な肉歯類が捕食者であり、かつ腐肉食者でもあったことを示唆している(アラン・ターナー、2004)。