中生代のジュラ紀から白亜紀にかけて、カメのような胴体に長い首を持ったプレシオサウルスの仲間が繁栄した。これを日本では首長竜(長頸竜)と呼んでいる。これらは二つのグループに分けられ、主にジュラ紀にヨーロッパに生息していたのがプレシオサウルス類。一方、白亜紀後期(8000万年前)に北アメリカに多く現れたより首の長いものがエラスモサウルスだ。

 代表的なプレシオサウルスであるジュラ紀後期(15000万年前)のムラエノサウルスは全長6.2m、首の骨は44個だった。それがエラスモサウルスになると全長14mに達し、首の骨は76個もある。これは全ての脊椎動物のうちで最も数が多い。首の長さだけで8mに近く、非常に柔軟で3回半もとぐろが巻けたといわれる。さながら大蛇のような首だった。19世紀、イギリスの古生物学者、Dean Conybeare がカメの体の中を通り抜けたヘビと呼んだのもむりはない。
 何しろ陸上のマメンチサウルスでさえ首の骨は19個だったのだからエラスモサウルスの首がいかに柔軟であったかは想像に難くない。比較的小さい頭骨はブルドッグのような口と、上下の歯がオーバーラップした乱杭歯が特徴的で、魚やイカを丸呑みにしたと考えられる。

 首長竜類の骨格から泳ぐのはあまり速くなかったと思われるが、それを補う長い首は獲物を捕らえるのに特化していた。おそらくヘビのように、あるいはサギのように咬みついたのだろう。エラスモサウルスの化石の調査から小型の翼竜類をも餌食としていたことが推測される。

 最近の学説によるとジュラ紀の末にプレシオサウルス類は絶滅し、白亜紀のエラスモサウルス類は首の短いプリオサウルス類から再び進化したものだとされている。

※ トップの絵では、エラスモサウルスが水中で活動しているが、その長い首は水中では大きな抵抗を受けるのではないかと上田さんから指摘されました。
 古生物学者もエラスモサウルスは海面上を泳ぎ、その間長い首は水面上に保たれていたと考えている。そして魚やその他の獲物を見つけると、それを狙って長い首を素早く水中に伸ばして捕らえたようである。ヘビウやサギなど長い首を持つ鳥類と同じように。

ムラエノサウルス  Muraenosaurus leedsi



 首長竜は多くの哺乳類のように、卵ではなく子を産んでいたとする研究結果が発表された。1987年に発掘された白亜紀後期(7800万年前)の首長竜 Polycotylus latippinus (全長4.7m)の腹腔の部分に小さな骨が収まっていた。母親が死んだとき、胎内にいた首長竜の赤ちゃんの骨だったのだ。これは首長竜が胎生だったことを示す初めての証拠である。
 他の古代海生爬虫類では魚竜イクチオサウルスが胎生だったことが知られている。イクチオサウルスは複数の小さな子を産んでいた。しかし今回の首長竜の胎児は約1.5mもあった。大きな赤ちゃんを単胎で産む現生動物の多くは、社会性を持ち、子育てに多くの時間と労力を費やす。自分の遺伝子を残したければ、そのたった1頭の子に多大なエネルギーを注ぐしかない。これは首長竜が子育てをしていたこと想像させる(NationalGeographic)。 ※ 上田さんから知らせていただきました。

 1968年に福島県で発見されたフタバスズキリュウはとみに有名だ。これも白亜紀後期のエラスモサウルス類で、発掘された本物は東京の国立科学博物館にあり、復元された骨格標本の複製が、いわき市石炭・化石館などで見られる。全長6.5m。この発見を知って来日した米カリフォルニア大学のサミュエル・ウェルズ博士にあやかってウェルジオサウルス・スズキイと命名されたのだったが、「正式の記載論文が公表されず海外専門家の承認も得られず、残念である」(鹿間、1979)との状態におかれてしまっている。
 2006年5月、エラスモサウルス科の新種としてフタバサウルス Futabasaurus suzukii と正式に命名されることが発表になった(恐竜の楽園)。

 フタバスズキリュウと共にサメの歯も数多く(80個以上)見つかっているが、サメに襲われたものか、死骸にサメが群がったのかははっきりとしていないようだ。
 シカゴにあるデポール大学の古生物学者、島田賢舟氏よるとフタバスズキリュウの化石と共に見つかった歯はクレタラムナ Cretalamna appendiculata という古代ザメ(約3m)で少なくとも7匹分にあたる。島田氏はこのフタバスズキリュウは死んでいたか、死にかけていたかのどちらかだろうという。「サメが自分より大きな動物の死骸をエサにしている場面に出くわすことはある。もし大きな相手に攻撃を仕掛けるにしても、手負いの場合がほとんどだ」(NationalGeographic)。

フタバスズキリュウはサメに襲われたのか?

フタバスズキリュウはサメに襲われたのか?(学研・恐竜の生態図鑑)

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