イノシシを丸呑みにする大蛇 Constrictor

 ニシキヘビは時にはシカやイノシシを呑み込むことがある。といってもたいてい子供であるが、では大蛇はどれくらいの大きさの獣を獲物にできるだろう?

 動物園であるアミメニシキヘビ(大きさ不明)が体重38.5kgのヤギを呑み込んだことがあり、O. ブレランド(1963)は飼育下では最大の記録だろうという。また6mの別のニシキヘビは36kgのヤギを呑み込んでいる。
 しかしフランクフルト動物園で長さ7.3mのアミメニシキヘビが体重54kgのブタを呑み込んだことがある(Oliver, 1959)。
 Adrian Nyoka が飼っていた巨大な雌のニシキヘビ Cassius(118kg)は、1973年2月に38.5kgのブタを比較的容易に呑みこんだ。食事を終えるのに要した時間は30分以内だったという。
 野生のヘビの腹から取り出された最大の動物は体重約60kgのインパラだった。このアフリカニシキヘビは長さ4.9mしかなかった(Walter Rose, 1955)。体重は不明だがインパラより大して重くはなかっただろう。長さ4.4mのかなり太めのアフリカニシキヘビで体重58kgの測定例がある。
 また1986年12月に長さ4.7m、体重37kgのアフリカニシキヘビが体重35kgのインパラを呑みこんでいた(Haagner, 1992)。
 Karl Schmidt(1957)は4mのアフリカニシキヘビが27kgのレイヨウを呑み込んだ例を挙げている。これも体の割には大きな獲物だ。

 アナコンダが約45kgのペッカリーを呑み込んでいたことがある。このアナコンダは長さ7.8mもあった。体重は不明だがこれくらいの長さのアナコンダは150kg前後と推定されるので、45kgなら大食とはいえないだろう。

 Rose や Pope は最大のニシキヘビが呑み込むことのできる最大の動物は70kgくらいと考えている。これは成人男性の体重に相当し、大蛇がおとなの男を呑めるかというテーマに関わってくる。しかし6m級のニシキヘビが人を呑みこんだ例があるので、ニシキヘビよりずっと重いアナコンダならもっと大きな動物を獲物にできそうに思えるが、今のところ証明されていない。


 イノシシやレイヨウなど大きな動物を呑み込んだばかりのニシキヘビは無防備である。大きな獲物だと消化するのに10日くらいはかかるが、その間ニシキヘビはほとんど動くことができない。こんな時サバンナではハイエナやリカオンの餌食にされてしまうことがある。

2006年9月5日、マレーシアの首都クアラルンプールから東に約200km離れた村でヒツジを丸呑みした大きなニシキヘビが路上に現れた。
 現地紙によると、6mのこのヘビは大きすぎる獲物を呑みこんだため動けなくなっており、消防隊員らによって簡単に捕獲されたという(ロイター)。

※まろまろさん、すくんびっとさん、watano さん、numata さん、NILE京橋2号店さんから知らせて戴きました。

ニシキヘビの失敗

 James Oliver(Snakes in fact and fiction, 1963)は次のような事件を紹介している。非常に大きなアミメニシキヘビが子ゾウの後脚にかみついた。同時に自分の尾を近くの木に巻き付けてアンカーとした。ジャングルの開けた地で行われた死の綱引きは、近所の村人を呼び集めて数時間にわたって続いた。
 ニシキヘビはついにゾウを絞め殺すことに成功した。ところが呑み込もうとしてすぐに行き詰まってしまった。1本の脚からでは先に進めなかったのだ。膠着状態に気づいた村人達は、ニシキヘビを切り裂いて両者を分けた。



トラもクマもヘビを怖がる

 小原秀雄氏によると、タンザニアでは何のつもりかおとなのゾウを攻撃したニシキヘビがいた。長さ5.7mのアフリカニシキヘビはゾウに引きちぎられて、川岸のブッシュと水辺の土の上とに遺体が残されていた(猛獣物語、1980)。
 キリンの死体の下敷きになってニシキヘビが死んでいたことがある。どうやら首に巻きついてキリンを絞め殺したニシキヘビが、倒れてきた1トンの重みに押しつぶされたらしい (G. W. Frame, 1976)。

サルはヘビを恐れる

 サルは本能的にヘビを恐れるものらしい。人がヘビを気味悪がるのもサルから恐怖心を受け継いでいるからだとさえ言われる。おとなのゴリラが檻から逃げ出した時、機転を利かした飼育係が小さなヘビを携えてゴリラに近づいたところ、恐れたゴリラは自ら檻に戻っていった。
 飼育下のチンパンジーの実験でも、ヘビを見ると攻撃的になったり、警戒姿勢を見せた。
 南アジアでも、アフリカでもニシキヘビは時々サルを獲物にする。Minton(Giant Reptiles, 1973)によれば、アフリカでニシキヘビがヒヒの群に接近したことが何度かあった。群の1頭を捕らえ首尾よく食事をものにできたケースもあったが、群の反撃にあって退散する羽目になったことの方が多く、中には殺されてしまったヘビもいた。

 トラもヘビを怖がると言われる。これは毒ヘビを警戒する意識から来ているのかもしれない。サンカラ(タイガー、1977)は、トラがコブラに出会うと、恐怖心から気を失ったようになり、ただ唸ったり、ハーッという声を発したりするだけであるという。また彼が飼っていた雄のトラは、曲がった棒やホースを見るといつも尻込みしていたそうだ。

 信憑性のほどは如何なものかと思われるが、非常に大きなインドニシキヘビが、約90kgのナマケグマを襲って呑みこんだことがあるといわれる(G. L. Wood, 1982)。
 登別クマ牧場でおこなわれた実験では、アオダイショウをヒグマの前に放すと、クマは興奮した時に出す泡を吹いて逃げ出したという。クマもヘビを怖がるようである。また長い紐を揺らすと一瞬飛び退くが、その後紐の先を追って前足で押さえ込み咬みついた。
 このことから人が野外でクマに出くわした時などとっさの場合に、この紐を放してクマが紐に気をとられている隙に逃げることは可能かもしれない(北海道新聞社「よいクマわるいクマ」2006)。

ヘビを見て泡を吹くクマ(登別クマ牧場)


 フロリダ南部のフォートローダデールで David Spalding は彼の家の裏庭で、大きなニシキヘビがゆっくりとアライグマを食べているのを見つけた。すぐに公園事務所と博物館に連絡したがなんの役にも立たなかった。そこで有害動物の捕獲を生業としている Todd Hardwick に依頼した。Hardwick(写真上の右から2番目)は近所からニシキヘビがアライグマを「まるでマシュマロのように食べている」のを見たとの噂を聞きつけた。そして Spalding の家の床下で長さ6.1m、体重約110kgもあるアミメニシキヘビが見つかった。もちろんペットとして飼われていたものが、違法に捨てられていたのである。

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