全長95〜120cm
 ヒゲワシは見ての通り、嘴の付け根からぶら下がっている髭のような黒いふさふさとした羽毛からそう呼ばれている。
 南ヨーロッパから中東、中央アジア、それにアフリカの幾つかの地域に分布している。翼を左右に拡げると2.5〜2.8mもある大きなワシだが、体は細く体重は4.5〜7kgほど。
 ハゲワシに近い鳥で、通常は野生のヤギ・ヒツジ類など大型獣の屍肉で、これらの動物が住んでいる山岳地帯が彼らの狩り場でもある。ヒゲワシは羽ばたきをしないで岩場を低空飛行し、周囲を絶えず見渡しながら死体を探す。
 よく知られていることだが、ヒゲワシは骨も好んで食べる。大きな骨をくわえて舞い上がり、高いところから岩の上に落として砕き、骨髄を引き出して食べる。だから他のハゲワシがついばみ、食べ尽くしてしまった死体さえも、彼らにとっては食べる余地のあるごちそうなのだ。
 ネズミやウサギなど生きた小動物を捕食することもある。

 時にはもっと大きな獣も攻撃する。獲物にねらいをつけるとその上空をらせん形を描いて旋回し、急降下して、険しい断崖絶壁を通るシャモアなどに襲いかかる。大きな翼で撃ちつけたり、爪で引っかけたりしてこれらの動物を崖下に落として殺すのだ。
 嘴や爪はあまり鋭くないので、負傷して死にかけた動物の近くに降り、その死を見定めてから食事に取りかかる。
 ヒゲワシが登山家を崖道で襲った例も幾つか知られている。

←シャモア Chamois
 アルプスやピレネーなどの山岳地帯に住む野生のヤギ類。アルプスカモシカともいい、日本のカモシカとも近縁だ。肩高80cm前後。

 またカメを捕らえることもある。爪でカメをつかむと、やはり高く舞い上がり、そこから落としてカメの甲羅を割り、中身をついばむ。
 紀元前500年頃のギリシャの詩人、アイスキュロス Aeschylus が死んだのはヒゲワシの仕業だとの説がある。
 カメを捕らえて空中高く舞い上がったヒゲワシが下を見下ろした時、ちょうどアイスキュロスが歩いていて、ワシは彼の禿げ上がった頭を岩と間違えてカメを落としたというのだ。

 アラビアンナイトに登場するロックはこの鳥がモデルだとの説もある。→エピオルニス

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